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女子サッカー界における世界最高峰の舞台、アメリカ。そのアメリカでプロサッカー選手を目指す日本人女性がいる。黒崎優香(21)。女子サッカーの名門、静岡県の藤枝順心高校でキャプテンとしてチームを率い、全国大会で優勝を果たした黒崎選手は、早くから将来を嘱望されていた。

しかし、彼女は、高校卒業後、日本の大学やなでしこリーグでプレーする道を選ばず、アメリカの大学に進学した。

なぜ彼女はアメリカの大学を選んだのだろうか。

アメリカの大学スポーツ全体の市場規模は、8000億円あるとも言われ、そのうち、NCAA(National Collegiate Athletic Association・全米大学運動協会)という組織だけで1000億円の収入がある。この数字は、日本のJリーグ全体に匹敵するものだ。この事実だけを見ても、日本の大学スポーツや、なでしこリーグよりも、アメリカへの留学を目指した方が、より良い環境でプレーできるということは容易に想像できるだろう。

日本では、2017年に日本版NCAA構想が立ち上がり、「UNIVAS」という名称で、いよいよ組織が始動することが決まっている。

今後、国内でも大学スポーツへの関心が高まっていくことが予想される中、本場NCAA傘下の大学でプレーする黒崎選手との対談をしながら、日本の大学スポーツ界の課題を考えてみることにした。


そして、先日、キングギアで、黒崎さんのインタビュー記事を公開した。日本とアメリカの決定的な違いであるスカラシップ(奨学金)制度のこと、入学の必須条件である語学の勉強の重要性、アメリカでの生活等について、キングギアで前編と後編の2話に渡って掲載されているので、まずはこちらをご覧いただきたい。

黒崎優香がアメリカの大学サッカーを選択した理由 【前編】 / 【後編】

キングギアでは、公平性という観点で、私個人の本音は書けなかったため、ここでは、アメリカの大学スポーツ環境が優れている理由、そして、日本スポーツ界のちょっとした闇の部分に触れてみることにする。

アメリカの大学スポーツの環境が優れている理由

(瀬川)アメリカでは、学生アスリートとしての評価を実感するようなシーンはありますか?

(黒崎)アメリカの大学スポーツは、メディアで放映されることも多いですし、日本に比べて注目度は断然に高いですね。だから、一緒に写真撮ったり、サインを求められたりっていうことはあります。

(瀬川)アメリカの大学スポーツは、常にメディアで放映されていますよね?

(黒崎)アメリカでは、試合になると国内でどの試合でも放送されています。カンファレンス(リーグ戦)ごとに、その地域ごとにライブで放送されるので、それがアメリカ全体で放送されている。大学スポーツの価値が高いから、全米で放送されるんですけど、小さいリーグになると、オンラインだけの中継になっちゃいます。でも、アメリカ人の場合、フットボールの試合があれば、試合をスタジアムに観にいけなかったとしても、絶対テレビで見るので。自分が出た大学じゃなくても観ています。

(瀬川)日本は、成長戦略の中で、スポーツ産業を現在の約3倍の15兆円にすると言っています。国がスポーツに力を入れようとしているのに、国民のスポーツへの関心がそこまで上がってきていないという印象はあります。スポーツの記事を書いても、アクセス数が伸びないですし、そもそもゴールデンタイムにスポーツが放映されないですしね。放映面で言えば、日本の場合、高校サッカーは注目されるけど、大学サッカーは注目されないとか、箱根駅伝は注目されるけど、全日本大学駅伝は注目されないとか、メディアによって創り出された歪な構造もあります。

箱根駅伝や六大学野球など、いくつかの人気コンテンツは商業面でも、放映権ビジネスとしては成り立っているのかもしれませんが、日本では、それを商業主義として嫌う声も多いですね。また、入場料で収益化することもできない。例えば高校サッカー。チケット代金が500円とか1000円みたいな、受益者負担が極端に少ない世界が当たり前になっています。スポーツと学校教育が結びついた途端に、商業主義が排除されてしまうのが日本の特徴です。

(黒崎)アメリカとは違い過ぎますね。

(瀬川)アメリカは、大学スポーツは完全に商業主義が蔓延していますよね。NCAA傘下の大学競技においては、競技間の格差を感じることはありますか?

(黒崎)アメリカだと、やっぱりフットボールはケタが違いますね。ケンタッキー大学にいたときは、4万5千人ほど入るスタジアムがあったんですけど、次に移籍するオクラホマ大学は、9万人入るスタジアムがあるんです。

(瀬川)アメリカでは、大学がそれだけの施設を保有する商業的な意味があるっていうことですよね。スポーツの価値が日本とは極端に違っていますからね。そもそも、アメリカの大学スポーツの市場は4大プロリーグに匹敵すると言われる8000億円の市場規模があり、その中でもNCAAは1000億円とも言われていますが、そんな環境の中にいることを実感することはありますか?

(黒崎)アメリカでは、お金を払ってスポーツを観に行くのが当たり前ですし、フットボールの試合があれば、道路も通行止めになります。本当にすごい人が観に来るので。朝の9時くらいから道路脇でテント張って、バーベキューみたいなことをやっていたりもします。

(瀬川)競技間の格差でいうと、アメフトの次はやっぱりバスケがすごい?

(黒崎)そうですね。私がいたケンタッキー大学は、バスケが強くて、プロに行く選手も多かったんですけど、大学の試合でも、天井には4面のヴィジョンがぶら下がっていますし、試合前にも、花火みたいなのがパーンって上がって。体育館なのにですよ。

(瀬川)公共施設を使うことが多い日本のスポーツ興行では、なかなか実現が難しいことですね。ちなみに、競技ごとの収益は、NCAAから分配される仕組みですよね。要は、NCAAを支えているのは、フットボールやバスケの収入が大半で、それこそが、大学スポーツが商業主義として成立している大きな理由ですよね。今の日本に、NCAAの日本版を作ったとしても、この商業主義を成立させる要件がどこまで揃うのかは疑問です。

(黒崎)私も、日本でNCAAのような仕組みができるには、何十年とかかると思います。

(瀬川)選手は学生だからアマチュアという扱いだけど、100%のスカラシップの場合、年間で何百万円を学生アスリートに給付していることになります。学生アスリートにそれだけの価値があるっていうのがアメリカの大学スポーツのすごいところで、それが成立してしまうだけのガソリン(お金)が潤沢に流れているってことですよね。2016年の、あるディヴィジョン1に所属する大学のアスレティックデパートメントの収入は135億円ほどあって、そのうち、フットボールが59億、バスケで15億と、全体の6割近くを占めていて、フットボールとバスケに支えられている状況なんですよね。収入科目で言えば、チケット収入と放映権料が、全体の4割以上を占めている。つまり、フットボールやバスケへの国民の関心が高いから成り立つんですよね。日本の大学スポーツにおいて、大学スポーツ界を経済的に支えるような競技が今のところ思いつかないですよね。

アメリカはリーグ運営もプロ

(瀬川)ちなみに、各カンファレンス(地域リーグ)ごとにリーグが運営されていると思いますが、ホームゲームの運営は大学側ですよね。それだけのスタッフが揃っているのも、日本じゃ想像できないですが。

(黒崎)はい。 大学側で運営しています。選手が運営に関わることはないんですけど、大学が雇用したスタッフや一般の学生、アルバイトなどで運営していると思います。メディア担当のスタッフもいますし。私たち選手は、宣伝なんかはもちろん協力することはありますが、基本的には、メディア担当がチームのアカウントで発信したものに対して、選手が拡散協力するような形くらいです。

(瀬川)ちなみにチケットの担当もいる?

(黒崎)います。選手たちは、もしゲストを呼ぶなら、無料で招待できるので、オンラインでその人の情報入力をしています。

(瀬川)それもチケットマスターの仕組みを使うとか?

(黒崎)それはわからないんですけど、自分たちのアカウントから、チケットに飛べるページがあって、試合を選択して、その試合に誰が来ますっていうのを入力したら、その人たちは、当日、会場でゲスト用の受付で名前を言って、IDを見せれば、チケットをもらえて無料で入れるっていう。

(瀬川)その辺りは、割とアナログな世界も残っているんですね。ちなみに9万人のスタジアムは大学が保有しているんですよね? どんな施設ですか?

(黒崎)ケンタッキー大学の場合は、スタジアムがあって、地下にはフードを買えるところがあって、駐車場があって、アスリートがご飯食べれるレストランがあったり。

(瀬川)VIPサービスを受けられるラウンジみたいなものも当然ありますよね?

(黒崎)あ、あります。オクラホマ大学の場合は、ケンタッキー大学の倍の大きさのスタジアムなんですけど、そこにはアスリートが家庭教師と勉強する部屋があったり、パソコンルームがあったり、本があったり。もちろん、コーチたちのオフィスもあるし、アスレティックデパートメント(大学のスポーツ部門)のオフィスもあったり。アスリートが使える大きなジムもあります。

(瀬川)そもそも大学が保有する施設の充実度が日本とは全く違うね。日本の大学がアメリカみたいな環境になるって、全く想像がつかないですね。そこまで大学スポーツの価値が上がるイメージが全く沸かない(笑)。

(黒崎)そうですよね。

日本スポーツ界の闇

(瀬川)日本は集客に苦労して、一生懸命になっている。海外に比べて、スポーツに対する関心が圧倒的に低いのかもしれないですね。

(黒崎)先日、フットサル選手の星(翔太)さんとか田口(元気)さんらが集まるイベントがあって、そこに招待してもらった時に、みんなでフットサルを観にいこうっていう話になって。私も、たまたま予定が空いていたので、墨田区総合体育館に行ったんですけど。その時に、星さんがハッシュタグをつけて色々やってみようって考えながら実践されていましたよね。

(瀬川)あ、ハッシュタグを使った「墨田体育館に行って帰ってくるまで」ってやつ!それで僕のSNSを見て連絡をくれたんだね。Fリーグも環境は女子サッカーと似ていて、働きながら競技をするっていう環境で、集客もうまくいっていないから、選手たちは色々試行錯誤している状況だよね。一方で、リーグ運営側は、クラブや選手が勝手に動くことをあまり面白くないっていう人もいるみたい。「俺の知らないところで勝手なことするんじゃねぇ」みたいな。それは日本のスポーツ界、いや、日本社会全体にそういう人たちがたくさんいて、それが蔓延しているんだろうね。女子サッカーも一緒なのかもしれない。

(黒崎)今の話を聞いていて思ったんですけど、やっぱり日本の大学って、トップの人が下の意見を全然受け入れないから、変わらないんだなって。日本の大学に通っている友達も同じようなことを言ってて。でも、アメリカの場合は逆で、トップの人が下の意見をどんどん取り入れます。大学でこういうイベントをやりたいって言えば、その意見は通るし、ボスが周りに耳を傾けているから。私の知人が通う大学では、メンバーに入れなかった人たちは、イベントのプロモーションを担当したりするらしいんですけど、それを企画して学校側に話しても学校がノーって言って、結局できないことが多々あるようです。

(瀬川)ありがちな話ですよね。NCAAみたいに、ルールを統括するために、統括部門があるべきなんだけど、日本の場合は、やりたいことに干渉したり抑制するために統括部門が口を出すみたいな。統括の仕方を間違ってしまっている。

(黒崎)聞いた話ですけど、日本のNCAAみたいな動きに所属したくないっていう学校があるんですか?

(瀬川)あるある。

(黒崎)それを聞いて、どういうことなんだろうって思いました。多分、そういうことってあっちゃいけないっていうか、アメリカの考えからすると、全校が所属して当たり前っていうか、所属しないとリーグが成り立たないっていうか。

(瀬川)結局、さっきの既得権益の話とか、経営責任がどこにあるかっていう話になっちゃうんですよ。これは想像ですけど、大学が経営責任を持っていて、もちろんそのリスクも持っている中で今まで経営してきたわけだから、統括団体が何かルールを作ろうと思っても、大学側は「そんなこと言っても、結局責任を取るのは私たちでしょ」ってなるんですよ。きっと。UNIVASを作って、大学をそこに所属させようとして、加盟料を徴収して、ルールの中で運営させるつもりでも、結局、大学側からしたら、「UNIVASってなにしてくれるの?」「もし、加盟しても、大学の収益が出なかった時に、リスクを負っているのは大学なのに、なんでUNIVASに加盟しないといけないの?」っていう人たちが多いんじゃないかな。

(黒崎)そこがうまくいかない限り、なでしこリーグも難しいんじゃないかなと。

(瀬川)そうですね。まさにその通りで、現時点でもそうだけど、リーグ側がクラブへのメリットを提供できない状況下では、ガバナンスもなかなか効かないし、クラブ側の発言権が強い状況では、そう簡単に事が進むとは思えないですよね。でも、UNIVASに賛同している大学もたくさんある。時間はかかるかもしれないけど、そのような大学が、より良い環境を作って、学生に選ばれていくことで、徐々に変わって行くといいですね。


取材後記

ここまで、さんざん、商業的な視点での記事を書いてきたが、NCAAのように行き過ぎた商業主義は、いつか別の問題を起こす。それは承知の上で、現時点では、それでもアメリカの商業主義から学ぶべきところは大きいと思ってこの記事を書いた。

また、日本のスポーツ界で昨今問題視されているハラスメントや暴力行為を排除し、安心して学生生活を送れるような基盤をつくるためにも、このUNIVASが前進して欲しいと節に願っている。

今後、日本の大学スポーツがどのように進んでいくのか、しっかりと見守って行きたい。