ライフセーバー・飯沼誠司からの問題提起
僕は数年前より、取材・執筆活動を続けており、主にスポーツ分野を専門としている。
取材・執筆活動をしている僕は、世間一般的には、「ライター」とか「作家」と言われるのかもしれない。「ジャーナリスト」や「記者」といえば、もしかしたら、そうなのかもしれない。だが、そんないずれの肩書きにも大きな違和感を感じていた。
僕は、自分が書いた文章を通じて、社会にどんな役割を果たすことができるのだろうか。僕は何者かになることができるのだろうか。
これまでの活動の中で、僕は数多くのアスリートや競技団体のトップを取材させていただきながら、様々な媒体に寄稿し情報発信を行ってきた。マイナースポーツの情報を取り扱ったこともあるし、スポーツビジネスを題材にすることもある。もちろん、アスリートのメンタリティは多くの人の参考になると思って発信してきた。それらの情報は、いまでも読者にとって価値があるものだと思っているし、今後も求められる限り、発信し続けていくだろう。
だが、2019年に入ってから、僕の興味は、大きく「社会課題の解決」に傾いていくことになった。
そのきっかけが、ライフセーバーの飯沼誠司さんとの出会いだった。僕は飯沼誠司さんのライフセービング活動についての取材を進めていくうちに、一つの大きな社会問題にぶつかった。
「海洋プラスチック問題」だ。
飯沼さんらライフセーバーは、夏になるとライフガードとして、海水浴場の監視を行う。その日々の中で飯沼さんが気になっているのは、沖に流される浮き輪の数があまりに多いことだという。興味を持った私は、そのことをさらに詳しく質問した。すると飯沼誠司さんから、このような答えが返ってきた。
「実は、海水浴場の委託元である行政の担当者は、危ないから流された浮き輪は回収しなくていいっていうんです。でも、世の中はこれだけ海洋プラスチックが問題になっている中で、そのままにしておくわけにはいかないから、僕らはタイミングを見計らって、ジェットスキーを使って一気に回収しています。1回の回収で、60リットルのゴミ袋2袋くらいの浮き輪が回収されます。もちろん、浮き輪を潰してですよ。」
さらに飯沼誠司さんはこう続ける。
「その現実を、浮き輪を生産している会社の社長や社員の方々に伝えたところ、“そんなことが起きているなんて知らなかった”っていうんですよ。」
僕は、この話を聞いた時、これが日本の高度経済成長を支えてきた、ものづくり大国・日本」のウラの姿であり、これが資本主義経済のウラ側なんだと気づいた。僕の中で何かがザワザワと騒ぎ出した。
僕らは便利なモノを大量に消費し、使い捨ててきた。どこか後ろめたさを感じながらも、消費に歯止めをかけることはできなかった。いま世の中で話題になっている環境問題は、僕らが引き起こしたことなのだ。
この時、僕は、自分がパワーを使っている取材・執筆活動を、社会課題の解決に役立てたいと思った。それが、伝える力を持った僕が、今の時代に生を与えられたことの意味だと直感的に感じたからだ。
ちなみに、我が国・日本のプラスチックの生産量は世界第3位、さらに1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量については、世界第2位。つまり、プラスティック製品を使った大量生産・大量消費の先陣を走ってきた国だと言える。いま、僕らは、国際的に問題になっている海洋プラスチック問題に対しても、責任を持たなければならない立場にある。
僕らは、この問題に対して、どんな行動をすれば、自分が積極的に関与することができるのか。真剣に考えなければならない時にきている。
僕は、飯沼さんのようなアスリートが自分の能力を使って社会課題と向き合っている姿を見て、僕にはそれを社会に伝える責任があると思うようになった。
これからしばらく飯沼さんの活動を追って行くことになりそうだ。